ご紹介いただきました神戸大の砂原でございます。
恐縮ですが着座にてお話をさせていただきたいと思います。
本日は私の方からは地方自治と憲法について申し述べたいと思います。
日本の地方自治が憲法の中でどのように位置づけられているか、そしてその変更をどのように考えればよいのかを整理することを目的とします。
その上で参議院議員選挙における一票の格差について私見を申し上げたいと思います。
実は今回お話をいただいたときにかなり戸惑ったことがございました。
地方自治の憲法上のデザインについてお話ししてほしいというふうに言われた一方で、本日の議題が参議院議員通常選挙の一票の格差の問題であるということです。
どちらを主にお話すべきかについて戸惑ったのですが、この戸惑いは本日の陳述全体とも関連するものだと思います。
結局私自身は今日は地方自治制度のデザインという観点からお話を申し上げますが、まさにその観点にもありますように、私自身は一票の格差の問題というものを、制度設計の帰結であるというふうに考えています。
制度設計の帰結ということは、反対に言えば、その一票の格差の問題を何としても解決するために制度の変更を行うことで、その地方自治やその他の政治制度のデザインを歪めてしまうということは望ましくないだろうというふうに考えているということです。
地方自治に限らず理念に基づいて政治制度を設計した結果として、そもそも一票の格差が解決すべき問題なのかどうかということが問われるべきだと考えていますし、もしそれが解決すべき課題であるとされるのであれば、政治制度の設計の中に織り込んで、他に歪みを出さないように解決を考えるべき問題だというふうに理解しております。
さて、その地方自治に関する憲法上の最大の特徴は、明示的な規定が極めて少ないという点だと考えております。
このことはこれまで地方自治の多くの部分が憲法ではなく法律によって設計されてきたことを意味します。
その結果、日本では地方分権改革のような大きな制度変更も憲法改正を伴わずに実現してきております。
本日はこの特徴を踏まえながら、まず中央地方関係、そして地方レベルの政治制度という、まさに憲法で制度設計を行うということもあり得るような、基幹的政治制度についてお話をし、次にその両者の連関の観点から議論を申し上げたいと思います。
次のページをご覧ください。
まず皆様にはまさに正論に説法というふうに思いますが、その憲法の条文を確認したいと思います。
92条では、地方自治の本旨に基づいて制度を法律で定めるとされていて、93条では議会の設置と議員の直接選挙、94条では条例制定権、そして95条では特別法に対する住民投票が規定されております。
ここで重要なのは、その地方自治の本旨という、極めて抽象的な概念が中心に置かれている点です。
この概念が曖昧であることによって、地方自治制度は法律レベルで非常に柔軟に変更が可能な構造となっていると考えられます。
もし憲法の変更というものを考えるのであれば、おそらくこの概念をいかに具体化するかというのが重要な論点になるというふうに考えられます。
まず一つ目の基幹的政治制度であります、中央地方関係というものについて考えてみたいと思います。
この時に重要になるのは、国と地方の権限配分や財源の問題です。
この点について、日本の特徴は、国と地方が非常に柔軟な役割分担を行ってきたということにあり、それを可能にしたのが地方自治の本旨という概念というふうに考えられています。
学術的には、地方自治の本旨というふうに言ったときには、住民自治、団体自治という2つの要素から構成されると理解されることが多いと思います。
住民自治は住民による統制、団体自治は自治体の独立性を意味します。
しかしこの概念は極めて抽象的で、具体的にどのような制度が地方自治の本旨を満たすのかについて、明確に判断する基準にはなりにくいところがあります。
この曖昧さが制度変更の余地を法律の方に広く残すことになっていて、実際に90年代以降の地方分権改革において、国から地方への権限移譲が法律によって実現したということになります。
今、日本の特徴というふうに申しましたが、国によっては、この権限配分や財源配分について、憲法レベルで規定するというところが少なくありません。
これは憲法という上位規範で、国の仕事、地方の仕事、あるいは国地方が共同でする仕事というものを定めた上で、そのための財源を割り当てるということです。
権限は非常に重要な問題ではありますが、私自身は中央地方関係において中核的な問題というのは財源の配分だというふうに考えています。
それは権限の側も含めた責任というものを誰が担うかと関わるからです。
この点について一部の連邦国家では、少なくとも理念的には地方自治体、地方政府が自ら税を徴収して必要に応じて債務を発行しながらサービスを提供するということが想定されています。
地方レベルで受益と負担が一致するという、非常に責任を持たされる地方自治が考えられているということです。
他方で、日本のような単一国家では、全国的に一定水準の公共サービスを保障することが重視されます。
そのため、国が基準を定めて、地方自治体はその自治主体として機能するという役割分担になりやすいです。
その場合、地方自治体は完全な意味で財政責任を負うのではなくて、国が定めた基準に対して追加的にサービスを提供するということで、責任を負う構造です。
日本のような単一国家と申しましたが、実際に日本で明確にそういった財政責任が求められる制度になっているかというと、必ずしもそうではありません。
柔軟に分担するということは、国と地方が融合的で、責任がやや曖昧になるということともつながります。
地方分権が進む中で、地方自治体がどういうふうに自らの責任で仕事をするか。
これは、国と違う責任というものを地方自治体がどのように持つかということと関わっております。
連邦国家の憲法では、こういったことが規定されやすいということでもあります。
日本では地方分権改革は進みましたが、基幹的政治制度としての中央地方関係については、以前とそれほど変わっていません。
その中で、まず前提として、地方自治体にどのような責任を負わせるかというのは、この地方を考えるときの論点の一つとなります。
二つ目に基幹的政治制度として指摘したいのは、地方レベルの政治制度のお話です。
重要なのは、憲法で議会の設置と直接選挙が明示されている点です。
これは地方自治体における代表民主性の基本構造というものを定めるものです。
しかし、この代表民主性に対して、住民投票の増加に示されるように、近年では直接民主性の役割が拡大しています。
2000年代以降、条例に基づく住民投票が広がっていますが、これは政治の決定に対する住民の拒否権としての性格もあります。
こういった直接民主性を憲法でどう位置づけるかは重要な論点です。
元々憲法では95条で特別法に関する住民投票が規定されていますが、実際には50年代以降ほとんど使われておりません。
他方で近年では、特に基地や原発についてですが、実質的に一つの自治体を対象としている法律が、住民投票なしで決められているといったような批判もございます。
次に、地方自治体の執政制度と選挙制度というものの問題です。
日本では、首長と議会、双方を選挙で選ぶ二元代表制というものが採用されていることになっています。
形式的には大統領制に近いとされていますが、実際には議会の不信任決議や、首長による議会の解散というものが存在するために、議員内閣制的な要素も含まれているというふうに考えられています。
この重要な特徴は、これは国政も実際そうなんですが、憲法において選挙制度の規定がないということです。
地方自治体の選挙制度は国政と同様に公選法で規定されるということになっていて、私の理解する限りですが、地方においてどうやって民意を集約して議会を作るかということは、なかなか明示的に議論されたことがないままに選挙制度が作られているところがあります。
現行の選挙制度では、やはりその個人中心の選挙を促しやすい、政党の役割が強くなりにくいという傾向が知られています。
とりわけ、定数が非常に大きい選挙区では、なかなか当選に必要な得票率が低くなりやすいとか、その結果として、議員は有権者に対して個別な利益を提供するインセンティブを持ちやすくなって、議会の中で政策形成をするよりも、首長との個別交渉に受け身的に依存する傾向が強くなる。
こういう傾向が指摘されるところがあります。
この選挙制度はどういう地方政治をするのかということと非常に大きく関わってくるわけです。
国としてその点にどう関与するべきかということを考えるのが、憲法の中でどのように地方政治を位置づけるかという論点になるというふうに考えています。
三つ目に、今申し上げた中央地方関係と地方政治の連関について申し上げたいと思います。
まず重要なのは地方自治体の国政参加というものです。
地方政治から国政への働きかけというふうに言ってもよいと思います。
憲法は地方自治体の条例制定権を規定していますが、それはあくまでも国の法律に反しない範囲でということです。
論点になるのは、国の法律の制定に対して地方自治体の側が関与できるのかということです。
近年では国と地方の協議の場というものが制度化されていて、6団体の意見表明権なども整備されつつあります。
さらに制度的な発展系として構想されるのが、いわば参議院を地方の府とするような構想です。
これは地方を代表する第二院を設けるという発想とも近くて、アメリカ型の直接選挙モデルですとか、ドイツ型の連邦参議院のモデルのようなものも考えられると思います。
地方議員に投票される間接投票を行っているフランスも、それに近い発想かもしれません。
もう一つの重要な連関の形態は政党です。
地方政治ではこれまで政党の影響力は限定的でしたが、近年では政党の中でも都道府県連組織が一定の凝集性を持っていたり、庁を中心とした地域政党の台頭が見られたりしています。
ただし、これらの政治団体は、地方政治の中で制度的に十分整備されておらず、資金や規制の面でも不安定な状況にあります。
今後、地方自治体の役割というものを重視するのであれば、政党を中央と地方をつなぐ制度としてどう考えるかは、重要な課題になるというふうに思われます。
ここまでお話ししてまいりましたように、日本の地方自治というのは、憲法上の規定が少ないということで、柔軟な制度設計をしてまいりました。
しかしその裏返しとして、中央地方制度、地方の政治制度、そしてそれらの連関について十分に整理されてきたかというと、必ずしもそうではない。
そこで今後の制度改革とか憲法の変更を考える上では、これらの個別ではなくて、相互に連関する制度として考えるデザインが必要だというふうに理解しています。
その上で、最後に地方自治の観点から見て、参議院の再定義のようなことを議論できるのか。
それが本日の論点である一票の格差とどう関係するかに触れたいと思います。
考えられる一つの方向性は、先ほども少しお話がありましたが、参議院の性質を改めて定義し、地方の府として位置づけるような考え方です。
これは参議院を国民全体の代表ではなくて、地方の利益や意思を反映する機関として再編する、そういうような発想として理解できます。
このような発想、構想をとる場合には、参議院の審議内容を、例えば地方に関する事項に重点化するとか、衆議院との役割分担を明確にするということにつながると考えられます。
結果として、両院の権限は必ずしも対等ではなくて、非対称な構造になる可能性もあります。
また、このような制度設計をとるのであれば、現在問題になっている一票の格差についても、従来とは異なる形で理解される余地があるかもしれません。
すなわち、地方単位の代表性を前提とするものであれば、人口比例とは異なる代表原理が正当化されるという議論です。
例えば、一つの県から一つの代表とすれば、当然ですが大きな一票の格差が出ます。
それから、参議院の構成について考える余地としては、単純に地方代表のみで構成するのではなくて、専門的な知見を持つ議員を組み合わせるといったような制度設計もあります。
カナダもそういった議員を作っております。
最後になりますが、こうした新しい構想には少し問題もございます。
衆議院に対して非対称な権限を持つ参議院であれば、国民代表である衆議院と異なって、一票の格差が問題とされないかもしれません。
しかし、とりわけ参議院を地方代表として、かつ衆議院と対等にすることが可能かという、ここは非常に大きな点になります。
国民代表と地方代表を同一の重みで並立させることは非常に難しいというふうに考えています。
そのため、仮に参議院を衆議院と対等の形で地方の府として再編するのであれば、少なくとも地方とは何を指すのか、例えば都道府県なのか、あるいは別の単位なのかということを、憲法上十分に議論する必要があると思われます。
もちろん、地方の府とは別の選択肢として、参議院を現行の衆議院と対等な国民代表の議員として機能分担を図るといったような前進的な可能性もあるというふうに考えられます。
こちらについては、また時間が来てまいりましたので、質疑等で申し上げたいと思います。
以上で私からの陳述を終わらせていただきます。
ありがとうございました。