山地参考人は、ご紹介いただきました地球環境産業技術研究機構、長い名前ですので英語の略称のRTRIと言われているところですが、RTRIの理事長を務めております山地でございます。
本調査会の参考人として発言の機会を与えていただき、誠にありがとうございます。
お手元に2枚もののレジュメが配られていると思います。
その2枚目ですね、ここに書いてありますように、エネルギー安全保障と脱炭素実現をテーマにして、3つのE、エネルギー安全保障、経済効率性、環境適合性のバランス、第7次エネルギー基本計画とGX、グリーントランスフォーメーション政策、電力自由化と安定供給、DX×GX、電力と情報のインフラ統合。
この4項目について話をさせていただきたいと思います。
まず3つのE、エネルギー安全保障、経済効率性、環境適合性のバランスです。
レジュメに沿って書きましたけれども、1960年代から70年代にかけて、我が国のエネルギー政策の基本方針が確立されたと私は考えております。
まず国産の石炭から輸入石油へ、大きく急速なエネルギー転換が起こりました。
これは国産石炭が経済競争力で負けたためですけれども、エネルギーを輸入石油に依存することになりまして、安全保障上の懸念となりました。
またエネルギーの大量使用に伴う大気汚染問題が発生しました。
これに対しては電力・ガス業界が協力してLNG、液化天然ガスの輸入を始めました。
現在の我が国のエネルギーに関する環境問題は地球温暖化でございますけれども、1960年代頃には公害と言われていた大気汚染問題から始まったわけです。
また1970年代には2回に及ぶ石油危機が発生し、原子力の導入が急速に行われ、またサンシャイン計画と呼ばれた再生可能エネルギーの研究開発が開始されました。
石油備蓄も始まりました。
3つのEと呼ばれる我が国のエネルギー政策の基本は、このような経緯で始まったというふうに考えております。
今世紀に入りますと、この基本方針はエネルギー政策基本法として明文化されました。
2002年のことです。
それ以来、ほぼ3年ないしは4年ごとにエネルギー基本計画が定められ、最新のものは昨年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画です。
エネルギー政策基本法の策定時の議論は今もよく覚えておりますけれども、3つのEは二等辺三角形だと言われておりました。
経済効率性というのは通常の経済活動でも目標とされますので、エネルギー安全保障、それと環境的要請、この2つのEを政策目標として特に重視すべきだという議論でした。
1997年には京都議定書が採択され、当時はすでに地球温暖化対策がエネルギー環境問題の最大の課題でした。
また競争市場の活用を目指した電力システム改革も段階的に進められておりました。
2011年に東日本大震災の津波によって福島原子事故が発生して、原子力に代わる脱炭素電源として太陽光や風力などの再エネ電源の導入を図るために、固定価格買取制度FITが導入されました。
温暖化対策については様々な経緯がありましたけれども、2015年にパリ協定が採択されました。
特に欧州の温暖化対策は野心的で、温度上昇を産業革命前からの1.5度Cまでに抑制することとして、2050年には温室効果ガス排出を実質ゼロにする。
2050年カーボンニュートラル実現という達成目標、2050CNというふうにレジュメに書きましたが、カーボンニュートラルの略ですが、これが追及されるようになりました。
米国はトランプの第一次政権時代でしたけれども、2020年の大統領選挙では民主党のバイデン氏が勝利して、米国も2050カーボンニュートラルを主導するだろうという見通しの下で、我が国も2050年カーボンニュートラル実現を宣言いたしました。
ちょうど2020年の10月、菅政権の時でございました。
一方で2022年の2月にはロシアによるウクライナ戦争が始まりまして、天然ガスを中心にエネルギー価格の高騰が起きました。
そして今回の米国とイスラエルによるイラン攻撃というわけで、ナフサと石油製品の量的確保が緊急課題になっております。
このようにエネルギー安全保障、経済効率性、環境適合性の3つのEは、いずれも重要でございますけれども、そのバランスは時代によって変化すると思います。
この3つのEを基本としつつ、時代に適応してバランスを変える柔軟性が重要だと私は考えております。
次に第7次エネルギー基本計画とGX、グリーントランスフォーメーション政策です。
先ほど述べた第7次エネルギー基本計画は、GX2040ビジョンと同時決定されました。
第7次エネルギー基本計画では、エネルギーの安定供給を第一として、経済効率性の向上と環境への適合を図ると記されています。
つまり最近の情勢を踏まえて、3つのEの中でエネルギー安全保障が優先されております。
第7次エネルギー基本計画では再エネとともに原子力を最大限活用すると記されています。
従来は原子力の重要性については認めつつもその依存度を低減すると記されておりましたが、それは削除されました。
また、アンモニアや合成燃料を含む水素系の燃料への取り組み、あるいはCCUS、CO2の回収・利用・貯留技術、さらには大気中のCO2を回収するCDRと呼んでますが、カーボンダイオキサイドリムーバルの略ですけど、このCDR技術への取り組みも進めると記されております。
CDRにつきましては、私が理事長を務めるRITEも、大気から光学的にCO2を回収するDAC、ダイレクトエアキャプチャ技術に取り組んでおりまして、DACのパイロットプラントを昨年の大阪・関西万博に展示して好評を得ました。
温暖化対策については、1.5度Cの温度上昇は既に到達したとみられております。
最近では、オーバーシュートシナリオというのが現実味を増しています。
これは一旦1.5度Cを超えて、その後に温度を下げようということです。
このオーバーシュートシナリオを実現するためには、大気からCO2を回収するCDRが必要になります。
第7次エネルギー基本計画の審議過程ではRITEのシナリオ分析が活用されましたが、その中ではCO2排出上振れシナリオ、政府の資料の中での名称では技術進展シナリオという名前になってますが、これは世界全体で最適に2050年カーボンニュートラルを実現するシナリオで、日本単独では2050年カーボンニュートラル実現されていません。
第7次エネルギー基本計画の議論では、このような2050年カーボンニュートラル実現以外のシナリオも含む複数シナリオが提示されているということもご理解いただきたいと思います。
私は2050年カーボンニュートラル目標の維持は現実的ではなくなっているというふうに考えております。
GX2040ビジョンでは、20兆円のGX経済移行債による脱炭素に向けた先行投資支援とともに、炭素賦課金や排出量取引などカーボンプライシングによるGX投資誘導も記されております。
炭素賦課金やあるいは排出量取引での有償オークションによる収入は、GX経済移行債の償還に活用されることになっています。
構図としては非常によくできていると思いますけれども、政策の実行ではその具体的な仕組みが大切です。
この春から排出量取引については本格的に始まっておりますけれども、その細部が大事です。
神は細部に宿ると言われますが、そこに今後気をつけていく必要があると思ってます。
その中では、GXによるグリーン成長の実現には、私が懸念するところもあります。
我が国の温室効果ガス排出量は2050年カーボンニュートラルに向けてオントラックで減少しておりまして、欧米に比べると良い実績になっています。
しかしその実態を調べてみると、鉄鋼や化学産業などエネルギー多消費産業の衰退によるCO2排出の減少が大きくて、手放しで褒められる状況ではありません。
これは産業の国際移転によるCO2削減であり、カーボンリーケージと専門家の間では呼ばれておりまして、世界全体でのCO2削減に結びついていない懸念がございます。
私はGX政策の策定過程にも関与いたしましたが、GXの出発点はイノベーションによるグリーン成長の実現だったと思います。
イノベーションというのは非常に高感度なキーワードでございますが、きちんと費用便益評価をして選択をしていく必要があります。
水素系燃料とかCCUS、CDRなど脱炭素目標の実現に特化したイノベーションの実現にはコストがかかります。
やらないでいいと言っているわけではございません。
2050年カーボンニュートラル目標の実現と必要性に対して不確実性が増している状況の中で、脱炭素に特化したイノベーションだけに過度に介入することは大きなリスクが伴うと考えております。
その点では、最後の方で述べます社会イノベーションのような、より広範囲な便益が期待できる領域にもっと力を入れるべきだと考えております。
次に3番目の項目の電力自由化と安定供給について述べます。
地球温暖化への取り組みとほぼ同時期の1990年代に電力システム改革が始まりました。
発電部門の自由化から始まり、今世紀に入ってからは大規模自由化から順次始まる小売部門の段階的自由化が行われました。
2005年にはキロワットアワー、電力量ですね、これを取引する卸電力市場も設置されました。
2011年の福島原子力事故後は改革のスピードが加速しました。
2015年には電力広域的運営推進機関、略称で広域機関OCCTOと言ってますが、その創設。
翌16年には家庭用も含めた小売の全面自由化。
2020年は送配電システム運用の中立化を図るための送配電部門の法的分離が行われました。
その後はキロワット、容量を取引する容量市場、調整力でデルタキロワットを取引する需給調整市場などが導入され、今では様々な市場の乱立という言葉はあるんですが、そういう状況になっております。
昨年には電力システム改革の検証が行われ、今後も制度は見直されていく状況でございます。
電力システム改革は消費者の選択肢を拡大し、事業者間の競争による効率化など、一定の成果を上げる一方で、例えばFIT制度で参入が促進された再エネ発電事業者の規律の緩みであるとか、さまざまな課題が浮き彫りになっております。
私が最も重大な課題だと思っているのは、安定供給確保の主体が不明確になっていることだと思います。
容量市場では4年後の電源の固定費をカバーするメインオークションに加えて、長期脱炭素電源オークションも導入されましたが、依然として固定費回収見通しは不透明でございます。
この長期投資回収の予見性不足によって、電源投資不足が顕在化しております。
なお、十分とは言えないんですが、公益部門として残った送配電部門では、レベニューキャップという規制がついたもとで、原価回収程度が確保されております。
また、自由化された発電部門では、資金調達において金融機関への依存度が大きくなりますが、過度にグリーン化したファイナンス部門の圧力が厳しくなっております。
脱炭素に向けた社会的圧力が強まる中では、国外を含めて石炭火力への投資は特に厳しくなっておりまして、クリーンコールを導入している場合でも投資は困難になっています。
脱炭素への移行期に必要な既設火力の回収、あるいはLNG火力の新設やリプレイスにも影響が出ております。
また、原子力発電については巨額の長期投資が必要なので、現状の長期脱炭素電源オークションでは力不足だと思います。
これは今回のようなエネルギー危機下でのエネルギー安全保障実現にとって有意識問題だと思います。
国会では、このような電源の投資回収の予見性を高める、支えるために、財政投資の活用が議題になっていると思いますけれども、その重要性についてご認識を深めていただければ幸いです。
電力システム改革検証の議論では、今述べたような供給力確保の弱さが表面化していることに加えて、市場が乱立して複雑すぎる仕組みになっていること自体が投資を抑制させているのではないかということも指摘されております。
最後に、DX×GXによる電力と情報インフラの統合についてコメントします。
今回の第7次エネルギー基本計画の大きな特徴の一つはDX、デジタルトランスフォーメーションですが、DXに伴う今後の電力需要増大を踏まえているということです。
我が国の総エネルギー需要は2005年度をピークに減少傾向にあります。
電力需要についてもエネルギー全体よりは数年遅れてですが、緩やかながら減少傾向になりました。
ところが、ここ数年は生成AIの活用などによってデータセンターとか半導体製造での電力消費が急増しており、電力需要は上向きに変化しつつあります。
今後計画されている大規模データセンターでは、電源確保が我が国だけじゃなくて世界的に深刻な課題になっています。
アメリカでは一度廃止を決めた原子炉をデータセンターの電源として再稼働させる動きもございます。
今述べたように、データセンターによる電力需要増ということが今非常に課題になってますが、それの背景にはDXがもたらす利益があると思います。
長期的に見れば、DXによる社会イノベーションはサーキュラーエコノミーとか循環型経済とかシェアリング経済を推進して、CO2の排出を抑制しつつ新しい成長を実現する可能性がございます。
循環型経済とかシェアリング経済はサービスレベルを維持しつつ物質生産を抑制する、物をあんまりたくさん使わない、そういう効果があるので、新しい省エネを実現する可能性が開けてきます。
データを整備して通信で連携することで、自動車用の蓄電池であるとか、あるいは各家庭にあるヒートポンプ給湯器の蓄熱槽など、分散型資源の活用も効率的に行われるようになると思います。
これらは温暖化対策としての効果も持っています。
サイバーセキュリティの確保というのが大前提ではございますが、DXの政策の中でも、DXを活用した社会イノベーションにもっと積極的に取り組む必要があると思っております。
2番目の項目で述べましたけれども、2050年カーボンニュートラル目標の実現と必要性に対しては不確実性が増しておるという現状でございますので、社会イノベーションのように広範囲な便益が期待できる領域にもっと力を入れるべきだと考えております。
特にデータセンターの運用によって、大量の電力を情報に変えて蓄積したり、あるいは移動させたりすることができます。
北海道は再エネ資源が豊富で、再エネ電力を需要の大きい本州へ送ろうとしていますが、そのためには大規模な直流海底送電が必要になります。
それよりもむしろ北海道にデータセンターを設置して情報に変えておく方が経済的でございます。
データセンターでの情報処理にはAIの機械学習のように即応性が求められないものも多くございまして、遠距離の情報通信でも対応できます。
電力と情報インフラを統合して運用すれば、このような送配電の最適化に加えて、太陽光や風力など自然変動性電源に対する大きな調整力としての活用も期待できます。
私の専門分野はエネルギーシステム工学と言っておりますけれども、システム工学の醍醐味というのは、システムの境界の拡大によるより大きな最適化を実現できることです。
DXによる人間型社会やシェアリング経済の推進で物質制約、節約を実現して、さらに電力と情報のインフラを統合図ることで、物質エネルギー両方の連携が可能になって、大きな社会イノベーションを実現していくことが可能です。
それによってCO2削減とともに、新しい成長を導けるのではないかと思っております。
私からは以上です。
ご清聴ありがとうございました。
ありがとうございました。