私は、人権保障を職務とする弁護士、そして人権保障の専門家として、この国家情報会議設置法案、国家情報局法案の人権保障上の問題点と、我が国の情報法制に対する人権保障の角度からの提言を述べさせていただきたいと思います。
今回制定されます国家情報会議は、内閣総理大臣を議長とし、安全保障やテロ、緊急事態などについての情報収集、インテリジェンスと、外国のスパイ及びそれと一体と疑われる活動への対処、カウンターインテリジェンスについての調査審議をする機関であります。
そして、この国家情報局は、内閣総理大臣を議長とする国家情報会議の事務局として、インテリジェンスの司令塔となるとされております。
今、小谷先生からも言われましたが、戦後の歴史において情報局のようなものを持つべきだという議論は幾度もなされてきました。
しかし、それは実現しませんでした。
むしろ歴代の自民党政権は、このような選択を自制してきたと言えるのではないでしょうか。
それはなぜなのか。
国際紛争の解決手段として戦争という方法を放棄した日本国憲法の下で、戦争の道具となりかねないような国家情報局、さらには対外情報庁といったような制度は、平和国家日本にふさわしくないと考えられてきたのではないでしょうか。
今日の私のお話は、諸外国において情報機関についてどのような法規制、どのような監督制度が設けられているかを見ていきたいというふうに思います。
詳しい資料をお配りしていますが、簡潔に申し上げたいと思います。
まずドイツですが、ドイツの連邦情報局BND、これは外国情報が中心であって、今回日本政府が作ろうとしている国家情報局に相当するような組織ではありません。
むしろそれは憲法擁護庁だというふうに思いますけれども、このBND法によりますと、このBNDは警察機関に付属してはならない。
必要な情報であって他の方法で得られない、他の官庁が所持していないものに限って収集できる。
警察権限は持たない。
この権限を警察に代行させることも禁止する。
対象者への侵害が最も小さい措置を選ばなければならないといったことが定められております。
また、個人情報について誤っているものについては訂正と削除をしなければならない。
国外にいる外国人の通信内容データの収集は認められますけれども、ドイツ国民などの個人データを取得することは原則として禁止です。
聖職者、弁護人、ジャーナリストからの情報収集は禁止されております。
また、私的生活の核心領域の絶対保護といったことが期待されております。
2020年の5月19日、2020年の10月8日の連邦裁判所の判断などによって、これらの権限については厳しい制約が課されております。
その詳細については省略いたします。
連邦情報局は情報収集のみを任務として、対外的な工作などは行わないことが法に規定されています。
にもかかわらず、2017年に明らかになったところでは、連邦情報局がBBCやニューヨークタイムズ、ロイター通信などの電話を盗聴していたといったことが報じられております。
どれだけ透明な法的制度を作ったとしても、ドイツのような制度の下でもこのような事象が起きているということは、情報機関を設置する際に極めて慎重な姿勢が必要であるということを示していると思います。
次にオランダの制度についてご紹介したいと思います。
オランダでは2017年の法改正、これに当たっては当初の制度について国民投票で否決されるということを踏まえて、非常に厳しい法律改正が行われました。
この1枚のパワーポイントをここに載せてありますけれども、見ていただきますと、事前審査のためのTIBというシステム、事後監督・苦情処理のためのCTIVD、さらには議会による監督CIVD。
そして特定の場面、これはジャーナリストや弁護士に対する通信傍受に関しては、ハーグ地方裁判所が判断する。
このような非常に多層的な統制回路を形成しております。
私は、このオランダによる情報機関の統制がこのように議論して進められたという点は、今後の国会の議論でも非常に参考にしていただきたいというふうに思っております。
イギリスとアメリカについても詳しい資料を用意しましたけれども、時間の関係で省略させていただきますが、イギリスにおいてもですね、情報機関は政党のために、これも1枚のパワーポイントにまとめておきましたので、ぜひとも認めていただきたいというふうに思います。
最後にご紹介したいと思うのは、韓国の国家情報院のことでございます。
この点については、5月13日付の東京新聞で、韓国国会の情報委員会のナンバー2であるパク議員のインタビューが掲載されておりました。
KCIAの後継組織である国家情報院は1999年に制定されましたが、李明博、朴槿恵大統領の下で、反政府的な文化人、ポンジュの監督や作家の韓江氏らを含むブラックリストが作成されていた。
バイトを雇って革新系大統領候補を貶めるネットの書き込みがなされていた。
こういった不祥事の発覚を受けて、2020年に法が全面改正されております。
この全面改正された法が大変注目されるのは、政治的中立の維持、集めた情報の職務外利用の禁止などです。
の禁止調査は必要最小限、政治活動への関与の禁止、職権を乱用した逮捕監禁の禁止、違法な検閲、通信傍受、位置情報の追跡が禁止されました。
2024年の尹錫悦大統領による非常戒厳宣言の発令時には、大統領は政権に批判的な政治家の拘束、位置情報の追跡をこの国家情報院に命じましたが、国家情報院の幹部はこの改正法を根拠としてこのような指示を拒否しました。
大統領の指示した違法行為に国家情報院は加担しなかったのであります。
明確な法規制があったからこそ、韓国の民主主義体制は守られたというふうに言えると思います。
ここから国家情報局法案の問題点について申し上げます。
内閣情報調査室を国家情報局に格上げすることに、果たしてどのような立法事実があるのかが問われなければならないと思います。
そして内閣情報調査室、警備公安警察、自衛隊の情報保全隊、公安調査庁などの既存の情報機関にどのような問題点があったのか、そしてどのような改善をしなければならない点があるか、その歴史的検証をしなければならないというふうに思います。
国家情報会議のトップは内閣総理大臣なんですが、本日参考人にも登壇されております北村先生は、2012年9月に公布された情報と国家の中で、内閣情報機関の設置を提言され、これまで府省が取り扱っていた情報のうち、我が国の対外政策、安全保障、危機管理の基本に係るものについては、法令上の権限として、内閣情報機関の庁の各種情報に対するアクセス権が保障されるべきであると提言されておりました。
まさしく先ほどの北村先生のご述懐の中で、本法案の7条がこのことを法定しているのだというふうに思います。
しかし、この国家情報局が強制力をもって府省の情報を集約できる、そこにどんな歯止めがかけられるのか、そのことがこの委員会でまさしく問われているのではないかというふうに思います。
この問いに関しては、政府は国家情報局法案は組織法であり、新たな権限を付け加えるものではないから、その活動の限界を画す法制では不要であると説明されています。
しかし、情報収集のための活動に作用法による規律が必要ではないという考えに立つとすれば、明示的な法的枠組みを欠いた諜報活動を許容していくことになります。
内閣総理大臣の下に国家安全保障会議と国家情報会議がいずれも内閣総理大臣をヘッドとして主要閣僚によって構成される組織として並立することとなりました。
政治政策部門と情報部門が一応別個の組織にはなっていますが、むしろ融合してしまう危険性があるのではないでしょうか。
日本の安全保障に関する政治政策部門と情報部門が、先ほど小谷先生からも懸念が表明されておりましたが、いずれも警備公安警察の出身者によって担われるというようなことになれば、歪な政治構造が生まれてしまう危険があるのではないかと思います。
また、警察組織は本来政治的に中立であるべきだったと思います。
ところが、この警察組織の中の秘密警察組織である警備公安警察が日本の国家の政治部門と情報部門の中枢を壟断するというような体制が生まれたときには、日本国家としての経済、外交政策、バランスの取れた政策の遂行が難しくなるのではないかというふうに懸念いたします。
高市首相は衆議院の審査において、政府の政策に反対するデモそのものが情報活動の関心の対象となることは一般的に想定しがたいというふうに言われました。
しかし、この答弁は事実に反していると思います。
多くの公安警察官が、私たちが主催しているスパイ防止法案に反対するペンライトデモについて、個人を特定するような形で情報収集をしているというふうに見えました。
我々の立場から見てですね、公安警察が適法な市民運動に対する情報収集活動をしていた、そのことが違法であるということが名古屋高裁の2024年9月13日の大垣書簡事件で判決されています。
公安警察はまさに適法な市民の活動について情報収集しているのです。
また、森塾学園問題で安倍総理大臣や官邸幹部が大学の認可について特に便宜を図った可能性が指摘されました。
前事務次官の前川喜平氏が記者クラブで会見しようとしたところ、それに先立って、読売新聞の紙面に、同氏が出会い系バーに通っていた事実が報じられました。
前川氏はその後、雑誌の取材などに応えて、これには個人的に官邸の関与があったのではないかというふうに証言されています。
同氏の社会的評価を失墜させるための工作があったのではないかというふうに考えられます。
国家情報局を作るために、日本の情報法制には数々の問題点があると思います。
その中でたくさんの項目を挙げましたけれども、特に7番、4番から読みます。
情報機関は政治的に中立なものでなければならないし、警察機関と明確に分離されていなければならない。
情報機関は弁護士やジャーナリストの職業上の秘密を侵害してはならないし、個人のプライバシーの中核となるような情報を収集してはならない。
こういうことを法に定めていただきたいと思います。
また、安全保障分野の情報機関に特化した独立監視機関というものが必要となると思います。
この機関には集められている情報を見た上で、それについてきちんとした判断ができる権限が認められるべきです。
能動的サイバー防御法に基づいては、サイバー通信情報管理委員会が作られ、これには元札幌交際長官の近藤博子氏が委員長に選ばれております。
この委員会の権限は非常に限られたものですけれども、こういう制度を、情報機関全体に権限を及ぼすようなものとして、ぜひとも作っていただきたいと思います。
まとめます。
良識の府である参議院においては、時間をかけて国家情報局を今立ち上げなければならないのか、どのような立法事実があるのかというところから徹底的に議論していただきたいと思います。
そして以上に述べた我が国の情報法制の欠陥を是正する法制度の提案とセットでなければ、国家情報局の設立を認めることはできないという立場にこの委員会も立っていただきたいというふうに思います。
そして、1、情報局による情報収集の限界を法制化する。
2、国家情報局の政治的な中立性、そして警察組織との明確な分離を法的に規定すること。
3、政府から独立した第三者機関による実効性のある監督措置という3つの修正がこの法律には絶対に必要不可欠だと考えます。
このような修正がなされないままの法案の制定については、私は強く反対させていただきます。
以上です。
ありがとうございました。