小林良樹(参考人)情報セキュリティ大学院大学の小林良樹と申します。
本日はこのような機会を頂戴いたしまして、誠にありがとうございます。
私は主にアメリカの制度を中心といたしまして、インテリジェンス組織のガバナンスのあり方に関する学術研究を行っております。
本日は現在ご審議がなされております我が国の新たな制度案に関しまして、主に学術研究の立場から若干の所見を申し述べさせていただきたいと存じます。
大きく分けまして2つの点がございます。
第1は本制度改革案の学術的な意義についてでございます。
第2はその際に留意すべきと考えられる点についてでございます。
まず第1の点、本制度改革案の学術的な意義についてでございます。
インテリジェンスの意義や機能に関する考え方は様々でございますが、今般の改革案は一定程度、アメリカを含む各国における先行事例の知見に沿った側面を有しているものと考えられます。
アメリカを中心とする学術研究におきましては、インテリジェンスとは政策決定を支援するものというふうに捉えられております。
こうした観点からは、インテリジェンス機能の強化は政策決定の質の向上に資するものであり、また適切なインテリジェンスに基づく意思決定は、後から検証可能な合理性を担保する、このことにつながると考えられます。
こうしたことから、インテリジェンス機能の強化は政策決定に関する国民に対する民主的なアカウンタビリティ、すなわち説明責任の向上に資するものと考えられます。
例えばアメリカの歴史におきましても、いわゆる教科書事例ではございますが、例えば1962年のキューバーミサイル危機における意思決定過程におきましては、CIAをはじめとするインテリジェンス機関はケネディ大統領の政策判断、さらにはこうした政策判断に関する国民に対する説明、こういったものを支援する機能を一定程度果たしたと評価されております。
逆に言えば、インテリジェンス機能が不十分な場合、安全保障に関する適切な意思決定が困難となり、結果として国民に対する民主的なアカウンタビリティ、すなわち説明責任の十分な確保が難しくなることが懸念されるわけでございます。
さて、学術的には、インテリジェンス機能の強化のためには、いわゆるインテリジェンスサイクルを適切に回す、このことが重要だと考えられております。
ここで申しますインテリジェンスサイクルとは、単純化して申し上げるならば、必要な情報を収集し、分析し、政策決定に役立て、そしてその結果を次のインテリジェンス活動に反映させる、こうした一連の循環を意味いたします。
その上で、インテリジェンスサイクルを適切に回すためには、主に2つの点が重要と考えられております。
第一に、インテリジェンスの利用者である政策決定者が、インテリジェンスに対するニーズ、いわゆるリクワイアメントというものを責任を持ってインテリジェンス部門に提示することでございます。
第二に、そうしたリクワイアメントを受けたインテリジェンス部門が、統合された形で効率的に機能することでございます。
今回の法案におきましては、国家情報会議の設置が前者に、そして同会議の事務局である国家情報局の設置が後者に、それぞれ資するものと考えられます。
また、今般創設が検討されております国家情報局は、アメリカの国家情報長官室、いわゆるODNIを参考とした制度設計であると推察されます。
アメリカのODNIは制度の創設からすでに約20年が経過しております。
ただ、この間のアメリカのインテリジェンスコミュニティの統合機能につきましては、一貫して一定の評価がなされているところでございます。
例えば分析機能の高度化インテリジェンス組織の透明性の向上、こういったことに関するいわゆるインテリジェンス政策、諸施策の推進などの成果が指摘されているところでございます。
我が国におきましても、国家情報会議の機能が適切に発揮されるのであれば、こうしたアメリカにおけるODNIの場合と同様に、一定の成果が期待されるものと考えられます。
以上が第一の点、本制度改革案の学術的な意味についてでございます。
次に第2の点、留意すべきと考えられる点について申し上げます。
ここでは2点を御指摘申し上げたいと思います。
第1は制度の限界について、第2は国民の理解の確保についてでございます。
まず第1の点、制度の限界についてでございます。
学術上、インテリジェンス機能のガバナンスに関しましては、いくつかの困難な論点が存在するというふうに考えられております。
政治によるインテリジェンスに対する民主的統制と、インテリジェンスの客観性の維持、このバランス、あるいは、秘匿性の確保と、透明性や説明責任の確保の両立などでございます。
ここで申します客観性の維持の例としては、いわゆる政治化、ポリティサイゼーション、すなわち、特定の政治的立場への配慮等により、インテリジェンスの客観性が失われること、このことの防止も含むものでございます。
こうした課題に関しましては、各国においてさまざまな制度的、実務的工夫が積み重ねられてきておりますが、いくつかの学術研究におきましては、制度の整備は最終的にはそれを担う人に依存するとの指摘がなされております。
例えば、アメリカにおけるインテリジェンス研究の代表的な教科書でありますローレンス博士の著作におきましても、例えばインテリジェンスと倫理、あるいはインテリジェンスにおける政策決定者の役割、こういったことにそれぞれ独立の章が当てられておるところでございます。
こうしたことから、制度の整備のみならず、それに関与する関係者一人一人のリテラシーや組織文化が重要であると考えられます。
例えば、インテリジェンス組織において各人員のいわゆる出身省庁意識、こういったものが強く残る場合には、統合機能が十分に発揮されない可能性は残るわけでございます。
インテリジェンスの限界の理解、あるいは利用者としての責任の自覚、そしてインテリジェンス活動の秘密保持への配慮、そして党派的利用の抑制、こういった点などが求められると考えられます。
次に第二の点、国民の理解の確保でございます。
インテリジェンス機能強化の意義につきまして、