大橋弘「おはようございます。
ご紹介いただきました大橋弘と申します。
経済学を専門としておりまして、本法案の関わりですが、産業構造審議会の新基軸部会に所属をしております。
本日、貴重な機会をいただきましたので、本法案に関連して、我が国の産業政策が直面する課題と、その対応について述べさせていただきたいと思います。
我が国の産業政策が国際的に注目された最初のきっかけは、1962年9月に発刊された英国エコノミスト誌の記事だと思われます。
『日本を考える』という特集記事において、戦後の廃墟から、我が国が驚異的な資本投資を行うことで、高い実質経済成長を成し遂げた点に触れています。
戦後わずか10年余りで、世界一の生産者を勝ち取った造船業がその一例になります。
エコノミスト誌は、経済成長の要因として、大和で勤勉な国民性に触れた上で、鉄道や内向線による貨物運送などの産業インフラ、そうした産業経済を束ねる政策の存在について触れています。
この政策は80年代に入って通商産業省が行う産業政策として高く評価をされました。
もっとも1990年代に我が国は産業政策の看板を下ろすことになります。
規制を緩和して市場競争に任せることが最大の経済政策だと信じられたためであります。
今の海外の若い経済学の研究者の間では、産業政策といえば日本を思い浮かべるというよりは、中国や韓国を思い浮かべる人が圧倒的に多いと思います。
世界的に産業政策は2009年の世界経済危機をきっかけに復権いたしましたが、我が国では産業政策不評論がその後も続き、ようやくこの4年余りの間に新基軸という名称のもとに産業政策が前向きに語られるようになったというのが実情だと思います。
この4年の間、我が国では市場競争と産業振興のバランスを保ちながら、デフレ経済からの脱却に向けて賃金と物価の好循環を軌道に乗せるために、戦後の産業政策とは異なる発想の下で産業政策を推進してきました。
従来の産業政策は大胆に単純化すれば、単年度主義、透明性、公平性の3つを求められてきたといいます。
予算は会計年度内に使って翌年度に持ち越さない単年度主義。
政策の結果を次の立案に活用するよりは、評価結果を公開すれば透明良しとする透明性の確保、そして企業をできるだけ選別することなく、広く薄く均等に予算を配布する公平性といった点が、政策として求められていたのかなと思います。
産業政策として追うべき背中が見えていた当時と違い、今はどの国も不安定な国際情勢と急激な技術革新に翻弄されています。
場合によっては少数の企業や業種に投じる必要も出てきたということだと思います。
地政学的な情勢変化がある以上、国内の投資の方向性や目標も国際情勢に応じて機動的な微修正を施す必要があります。
政策立案の段階である程度の不確実性が事前に予見されるのであれば、それをプログラム化するような仕組みも有用です。
それが新基軸として我が国が編み出した産業政策であり、私が理解する限り、英国をはじめ、他国も大いに参考にしているものと思っています。
さて、我が国がこの4年余りで、ようやく産業政策が定着しつつある中、その実効性を高めるための措置が今回の法改正だと思っています。
地政学的なリスクの高まりで、国内へ生産拠点を回帰する動きがあります。
また、我が国の政治的安定性に惹かれて、対内投資に関心を示す動きもあります。
さらに、米国との戦略投資イニシアティブは、我が国経済への波及効果のみならず、不可欠性を確保する上でも、リスクではなく、国内投資拡大の後押しをする機会にもつながります。
こうした国内投資の拡大の機会を、地域の活性化の機会にもすることで、地域が苦しむ労働力不足や、人口減に対する課題の同時解決を目指す視点が重要だと思います。
国内投資拡大の前に、」の機会の前で、工場立地のニーズは2008年のリーマンショック以来低迷して久しく、工場用地の確保にノウハウを持つ人材育成も含めた新たなテクニカルノウハウが必要になっています。
2008年と比べて、工場用地は水以外にも電力などが必要となり、またデータセンター立地といった新たな需要に対しても、工場用地に求められるスペックは上がってきているといえます。
本来、こうした工業用地の造成提供は、基礎自治体や都道府県が役割になるものと考えられます。
しかし、進出を検討する企業にとって、自治体ごとに異なる手続きが障壁となるよりは、共通した一定の標準化や規格が望ましい部分もあり、産業基盤の整備を自治体とともに国が立案、調整する仕組みが望まれます。
こうした取組は、新たな地方創生の在り方としても事例の一つになるのではないかと期待されます。
なお、工業用地と同様な論点に、エッセンシャルサービスの維持があります。
地域の人が生活する上で必要なサービスには、交通、ガソリンスタンド、物流など様々ありますけれども、こうしたサービスはどれ一つ欠けても生活の不便を引き起こすものですし、また、工場立地において人の誘致を図る上でも必要なサービスといえます。
こうしたエッセンシャルサービスをしっかり民間事業として提供できる地域は良いですが、事業承継も困難になる中で、地方のようにサービスが撤退していく状況があれば、地域住民だけでなく、産業立地の誘致の観点からも、看過すべきではないと思います。
今回、エッセンシャルサービスとして、大臣が認定支援する制度は、産業政策の地域版と言えるもので、工場立地に並んで、これまでにない取り組みと言えます。
自治体においても、商工、労働、交通、医療、介護など、さまざまな課が、横串で考えていく必要があり、今回の法改正における地域産業政策は、国と地方との責任分解点の在り方、行政内における所掌部署の在り方に対して、より実態に合った取組を促すための一石を投じるものと思います。
最後に、本法案において、将来的に検討すべきと思う論点を2点述べさせて終わりとさせていただきます。
1点目は政策評価に関してです。
経済安全保障に紐づく産業政策や地域産業政策は、どれも過去の知見が十分でなく、文献調査を踏まえても、特定の事例の効果を予測しきれるものではありません。
その点で、あらゆる政策がそうであるように、未知の事象に対応する実験的な要素があります。
とはいえ、実験から学べることも多くあるはずであり、評価のための評価というよりは、次の立案に生かすための評価として、政策実施の振り返りはしっかり定量的なエビデンスをとって行っていただきたいと思っています。
この点は、行政府だけに任せて良しとされるべきものではありません。
国会においても、エビデンスに基づく政策立案を